2021年5月7日、NASAは「インジェニュイティ」が火星を飛行する際に発した「ノイズ」からドップラー効果を測定したと報告しました。これは驚くべきことでもあり、自明なことでもありました。
https://www.nasa.gov/feature/jpl/nasa-s-perseverance-captures-video-audio-of-fourth-ingenuity-flight
クレジット NASA/JPL-Caltech
驚異的な側面:火星にヘリコプターを輸送し、薄い大気の中を制御しながら飛行できることを実証できたことは、それに携わった科学者や技術者は最大の敬意を払うべき技術的成果です。
自明な側面:今から150年以上前、クリスチャン・ドップラーは、あらゆる波動現象(水の波、音、光)において、波源と相対運動する観測者が測定する周波数は波源の発する周波数とは異なることを、非常に簡単な式で証明しました。私たちが日々、通過する列車や救急車から発する音や、速度取締レーダーで経験していることが、もちろん火星でヘリコプター探査機インジェニュイティ が基地局パーサヴィアランスを出たり戻ったりする際に発するノイズの周波数にも明らかに当てはまることが確認されました。
この出来事はより一般的な文脈では非常に注目に値するものです。宇宙の一つの塵粒にすぎない地球に住む私たち人類は、環境を理解するための自然科学を発達させ、人間に備わった自然の能力をはるかに超える技術装置を開発しました。火星でヘリコプターが発する音を聞いたり、銀河中心でブラックホール周辺の発光現象からブラックホールの質量を決定したり、地球で確認した化学元素が宇宙のどこでも全く同じように存在するのが当たり前と考えています。でも、これは人間の心の思い上がりではないでしょうか。
ドップラーが最初に洞察した波動現象は、今日の科学技術にとってあまりにも基本的なものとなっており、私たちはつい忘れてしまいがちです。しかし、ドップラー効果に関連した研究に対して、これまでに11件のノーベル物理学賞が授与されており、直近では2019年と2020年にも授与されています。
現在では「ドップラー効果」は、ドップラーが知り得た以上のものとなっています。波の周波数変化は、送信機と受信機が静的空間で相対的に動いているときだけでなく、現代の宇宙論が示唆するように、空間そのものが拡大しているときにも起こります。遠くの銀河からの光の赤方偏移や、中性子星やブラックホールが合体して放出される重力波の周波数の変化が観測されていますが、これは「一般化された」ドップラー効果によるものと言えます。
ザルツブルグの石工の息子が、このような知への窓を開けたのです…。